はあ、と溜息をついて私は自分のカバンの横にある紙袋を見つめた。

・・・切原にジャージを返すと約束したのは今日だ。ということは、今日返さなければならない。

学校は夏休み中でも、立海テニス部は勿論部活があっているわけで。

青学と立海の試合は、明々後日。三日後ということになっている。

そのあいだで私がすべきことは、切原に借りているジャージを返すことだった。









「はあ・・・・。」







ため息をつきながら、もう一度借りていたジャージを見る。

綺麗に洗濯され乾いたジャージから、ほのかに柔軟剤の香りがする。自分が着ている洋服からも同じ香りがする。

切原に返すと約束したのは今日。・・・きちんと返さないとまた文句を言われそうだ。

・・・けれど、先日の試合を目の当たりにしてから、私は全く気が進まなかった。

当たり前だ。元々、切原の事がそんなに得意でなかったのに、あんな試合を見せられたら・・・。



ううん。考えるのはやめよう。顔を合わせたら、更に怖くなってしまう。





私はしぶしぶ、紙袋を手にして立海へと向かった。





























テニス部は異様な雰囲気だった。

そりゃそうだ。青学との試合が近づいて、更には前の大会では青学に負けてしまっているんだもんね。

立海を応援したい気持ちは勿論あるけれど、その度に不二先輩のことを考えると胸が痛くなる。

けれど、頑張っているテニス部員を見ると、自然と「頑張れ」と思ってしまう自分がいた。










「おー、じゃん。昨日ぶり!」


「・・・!」







いきなり名前を呼ばれたかと思うと、昨日会った準レギュラーの子だった。

ボールの入った籠を軽々しく持ちながら、「どーしたんだ?」とたずねてきた。







「ああ、もしかして切原?」


「い、いや・・・」


「切原ならすぐ呼んでこれるぜ!あいつ、今さっき練習試合終わったばっかだし。」


「・・・・・っ。」










どうしよう。切原にジャージを返さなきゃいけないから、切原に会わなきゃいけないはずなのに・・・。

なんか、・・・・・会いたくない。

だって昨日のあの試合を見ると、切原に良い印象なんかあるわけない。元々、切原のこと苦手だもん。

そんなことを考えていると、だんだんと切原にジャージを返すのが鬱々としてきた。









「じゃあ、オレ切原呼んでくるぜー。」


「・・・・・っ、ま、待って!!!」


























結局。













「つーか何で俺なんだ?」


「す、すみません・・・。」


「まあいいけどよ。お菓子貰えたし、これでチャラな♪」


「・・・・。」







私は、丸井先輩に切原に借りたジャージを託すことにした。

準レギュラーの子に渡すよう頼んでみたら、「アイツ、俺がと話したことがわかると、キレるから嫌。」と断られ。

結局、一番誰だったらいいかを相談したところ、丸井先輩になった訳だ。

丸井先輩は最初は驚いた顔をして、少し面倒くさそうにしていたけれど、一緒に渡したお菓子で機嫌を取り戻した。









「にしてもよ、お前も何で俺なわけ?直接、赤也に渡したらいいだろい。」


「・・・色々、事情がありまして、」


「なになに。ついに赤也と一線超え「超えてません!!!」





私が怒ると、丸井先輩は「冗談だっつーの。」と言って、笑いながらお菓子を口に入れた。

しかし、丸井先輩はやはり私が切原に直接ジャージを返さない理由が気になるようだ。

・・・・でもまあ、当たり前か。普通はきちんと借りた相手に返すもんね。

でも理由なんて、特にあるわけでもなく、私は丸井先輩の視線を避けるのに必死だった。













「はーあ。赤也も嫌われちまったもんだな。アイツ、何やらかしたんだ?」


「・・・・。」


「いいぜ。気にすんな!俺もこれ以上、聞かねえし。」


「・・・すみません。お願いします。」


「おう。じゃーな。」








私は丸井先輩に数回必死に頭を下げると、すぐにその場を立ち去った。

あまり長居すると、切原に会いかねないし、とりあえず立海から立ち去りたかった。




















「・・・・あーあ。赤也、これは結構苦労するぜい。」




























「おい、赤也。」






休憩に入ろうと部室のドアを開けた瞬間、先に休憩に入っていた丸井先輩から何かを投げられた。

腕の中には、見覚えのない紙袋。・・・なんだこれ?と思いながら、中を見てみる。







「それ、ジャージだよ。おまえ、貸してたんだろい?」


「・・・・!来てたんスか!?」


「ああ。急いでたからって俺に渡したけどな。・・・ありがとって言ってたぞ。」


「・・・・・・。」







ふーん。・・・急いでたのか。

あいつのことだし、直接返しにくるかと思ったんだけどな。

電話で用事を聞くあたり、かなり律儀なやつなのは知ってたし、今日辺り声をかけられると思っていた。

あっけなく、丸井先輩からジャージを返され、俺は少し拍子抜けした。













「お前さ、と喧嘩でもした?」


「は???してないっスよ!つーか、そもそも会ってねえし。」


「ふうん。」


「・・・何かに言われたんスか?」


「いや、別に違うけどよ。・・・何となく、違和感っつーか。」


「違和感?」


「・・・いや、何でもねえ!じゃ、俺は先に練習戻るぜ〜。」









・・・・何だ、今の。

丸井先輩の言った「違和感」という言葉。丸井先輩は一体何に対して違和感を感じたんだ?

結局、きちんとしたまま説明もしてくれないまま、先輩は部室から出て行った。

そこまで言われると、気になるのが当たり前。











静かに、紙袋の中身を取り出してみると、慣れない香りが漂ってきた。

そしてその中に、小さいメモ書き。



『貸してくれてありがとう。試合頑張ってね。』



細く、丁寧な字で書かれたそのメモ書きに少し吃驚した。

・・・やっぱり、アイツ律儀な性格だな。こういうメモをきちんと入れているあたり。

ジャージの紙袋を自分のロッカーに押し込んで、俺はさっさと部活に戻った。























決勝戦まで、あと二日。




























次は決勝戦ですね。もうそろそろ終盤クールに突入です!

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