私は、彼の前で泣くことが出来る。




 いよいよ、今日という名の決戦日がやってきた。その名の通り、決戦である。

 ついこの間、それとなく、自然に聞いたところ、彼は3日後だとぼそりと呟いたのを、私は聞き逃さなかった。聞いただけで、なぜ彼があんな、蚊の鳴くような声で呟いのかは、検討がついた。イメージと合わないからだろう。名前でいえば、名前負けである。まさに、誕生日負けしているのである。いや、寧ろ誕生日のイメージに勝っているのだから、誕生日勝ちの方が合っているのかもしれない。そこらへんの不良だけでなく、勝ち負けの関係ないと思われている誕生日にさえ勝っている彼は、やはり天の申し子なのだろうか。だが、天下の雲雀様、神様・雲雀様の誕生日が、なんとも可愛らしい、端午の節句であるこどもの日だとは、なんとも稀な巡り合わせである。だがしかし、今はそんなことに気を取られている暇はない。まず時間がない。こんなことなら、ゴールデン・ウィーク前に言ってくれればいいものを。他にも、プレゼントもなければ、バースデーケーキもない。とりあえず、どうしようかと持田くんに聞いてみたところ、どれも下らないので却下した。応接室で、一人と一匹になったのを見計らって、雲雀と仲良しの鳥に尋ねてみたところ、残念ながら、何を言っているのかさっぱり分からなかったため、諦めた。こうなったら、もう自分で考えて、自分で実行するしかない。ケーキは、なんとか作れる気がする。プレゼントは、…あとで考えよう。飾りは、今日作れば間に合うだろう。飾りと言っても、紙で作った花と輪っかだけだし、応接室だけだから、そんなに要らないだろう。彼が応接室に籠っていたことを、こんなに喜んだことはない。画鋲で刺して止めると、壁に穴があいて怒るだろうから、セロハンテープで貼れば問題ないだろう。ケーキは、とりあえず頑張る。5号ぐらいのショートケーキでいいだろう。少し苺が酸っぱい時期だけれども、そこらへんは、大目に見てもらおう。きっと今まで、超高級と名のつくものばかり食べてきただろうから、そこは開き直って、これが私の味ですみたいなことでも言っておこうか、真剣に迷う。嗚呼もういいや、小さければ良くわかんないまま終わるさ!雲雀の鈍感さに賭けるしかない!うおー!待ってろよ雲雀恭弥!!














♪当日(=決戦日)








雲雀には、『5月5日12時30分に応接室に来てください★それまで応接室に入らないで!』みたいな事を書いたカードを贈っておいた。そろそろ、約束の12時30分。クラッカーを構えて、来る彼を待つ。応接室のドアがギイと鳴り、お待ちかねの彼が入ったのを確認し、クラッカーの紐を引く。



「お誕生日、おめでとう!」
「ワオ、覚えてたの?」
「もちのろんですよ!」
「相変わらず言い回し古いね」



何だかんだ言いながらも、彼は嬉しそうだった。態度も去ることながら、彼特有の、クールでニヒルな笑顔に、少しだけ、人間味を感じた。この時、お誕生日会は、全人類に共通して楽しいことだということが証明された瞬間だったと思う。人間らしい顔をしている彼は、なんというか、可愛らしい。とりあえず、どうぞ、と今日の主役を応接室のご立派な机に招いた。



「ケーキ、作ったんだ」
「見た目悪いけど、味は大丈夫なはずだから、遠慮せずに食べなよ!」
「ん、ありがと」
「(!!!)」



私の頭は、混乱していた。不良だ鬼だと言われ、それを否定しろと言われたら、残念ながらそれは出来ません、と涙を飲まざるをえない程、優しさの欠片もなく、狂気の塊と思われていた彼が、そんな彼が、たった今、私にありがと、と言ったのだ。風紀の人たちを除けば、この学校で一番長い付き合いとなる私が、初めて聞いた言葉である。毎日が誕生日だったなら、きっと彼の人生も少なからず変わっていたんだろうなと思った。彼は、ふたり分で普通より少し小さめのケーキに口をつけ、おいしいよ、と一言言った。心から今、彼とふたりきりでよかったと思った。もしも、他に女の子がいたら、この雲雀を見たら、絶対好きになってしまう…!と悟ったからだった。たかがケーキ、されどもケーキだった。ケーキを笑うものは、ケーキに泣くのである。ケーキを食べながら、彼と彼女は話をした。下らないけど、愛のある話をした。
ふたりとも食べ終わり、一息ついた後、彼女は制服のポケットを探り、取り出した何かを後ろに隠した。



「あー雲雀くん?」
「何?」
「とりあえず、お誕生日おめでとう」
「どうも」
「今日と言う日があるからこそ、今私は雲雀と逢えているわけです」
「そういう事になるね」
「と言うわけで、素晴らしき今日の記念に、これをどうぞ!」
「ワオ、プレゼントくれるんだ」
「うん、開けていいよ」



リボンのかけられた小箱を渡された。丁寧にリボンをほどいていく。中には、見覚えのある、ウォレットチェーンが入っていた。紛れもなくそれは、彼女が使っているものと全く同じものだった。だが、これは新品のようだ。彼女が態々買ったらしい。



「この前、ほしいって言ってたから」
「ふぅん、嬉しいよ」
「俗にいう、オソロってやつですよ!」
「恋人同士っぽいよね」
「(わ、恥ずかしげもなく言ってのけた!)」

「あ、そういえば次の授業体育なんで、ここで着替えていってもいい?」
「構わないよ」
「じゃあ、着替えますよ?」
「どうぞ?」
「あの、部屋から出てください…」
「ちぇっ はいはい」
「(…)(ちぇって言ったよちぇって)」



少し遅刻したものの、雲雀とつるんでいた事が知れていたせいか、無事に5時間目が終わり、教室に至る。の服装は、周りの女子たちとは少し違っていた。の胸の辺りに、あるはずのリボンがなかった。なくした場所には大体の検討はついていた。応接室だろう。5時間目の開始時刻は迫っており、急いでいたせいもあり、リボンを落としたことに気付かなかったのだろう。取りに戻ろうかとも思ったが、次の授業も迫っていたため、諦め、リボン無しで授業を受けることにした。あと1分程で授業が始まる。風の噂に、雲雀が何かしているらしい、ということを聞いた。今日が誕生日である男が、誕生日の日に何をするのか多少興味はあったものの、今はそれどころではなかった。英語の予習が、まだ終わっていない。



「オイ、!」
「何持田くん私今busyなんだけど!ナウビジー!オーケー?」
「全然オーケーじゃねぇよ!雲雀がこの教室に向かってるってよ!お前、何かしたのか?」
「メイビーノー!」
「おまっ!いい加減英語は忘れろ!多分雲雀が来たらそれどころじゃなくなるからよ!」
「おお!ナイス!ナイス持田!これから君のことはナイス持田と呼ばせてもらうよ!」
「全く嬉しくねぇ」



がらがら、と見かけより三割増しの音がし、黒板から向かって後ろ側のドアが開いた。前から入らないのか…?とクラスのみんなが思いながらも、廊下側にある窓越しに、颯爽と歩く雲雀を見ていた。「」と呼ばれたときには、嗚呼やっぱり私かと思った。たった今教室に足を踏み入れた英語の先生は、雲雀を気にしながらも教卓に立ち、前の席の生徒と何があったのかと聞いていた。他の生徒は、こっちを見てみぬ振りをするように、隣の生徒と会話を交わしていた。見ていないのに、視線が私たちに集まっているのが分かる。後ろのドアの空間だけが浮いていた。



「何か用でも?」
「これ、忘れていったでしょ」
私の胸にあるはずのリボンだった。
「やっぱり応接室だったんだ、ありがとね」
「おいしかったしね、の、」


彼がケーキの事を口走りそうになり、雲雀の口を塞ぐ。風紀委員長が不要物を持ってきているというのは、いただけないだろう。


「あー、先生いるし?」
「それもそうだね じゃあ、また放課後にでも続きやろうよ」
「もうやりつくした感ありますけど」
「とりあえず、応接室においでよ」
「はーい」


嵐が去ったこのクラスでは、視線が私に注がれている。そういえば公の場で雲雀と会話したのは初めてだ。普通に雲雀と話せるというのは、こんなにも珍しいのだと実感した。英語の授業は再開されたが、未だに向けられる視線に私は戸惑いを覚えた。授業が終了するまでそれが続いたので、逆に不思議に思う。その不思議を見事晴らしてくれたのは、我らがナイス持田くんだった。


「オイ、」
「…何その目」
「は?堂々暴露してた癖にそういうのかー?」
「暴露?なにを?」
「今日のお前はどこかおかしかったんだよ、いつもはサボらない一時間目の国語はサボるし、なんかそわそわしてるし」



嗚呼周りからもおかしかったとバレたか、と思った。3日で成功させるために、身を削ってやっていたから動作にも出てしまったのだと思う。



「そこでさっきの会話。全てが一本の糸に繋がったわけだ。真実はいつも一つだしな」
「こなんくんに謝れよ!」
「まぁそれは置いといてだな、」
「なによ」
「今日、雲雀と寝てたんだろ?」
「…は?」



何故その結論へ辿り着いたのかが気になる。私は、そんなこと言った覚えはないし、もちろんしてもいない。ただ純粋にお誕生日会を…、あ。



「おいしかったしね、の、」「放課後にでも続きやろうよ」「もうやりつくした感ありますけど」





これか!!え、わ、誤解だって誤解!あー失言した気分だ!あ、だからみんな見てたのね、白昼堂々としかも校内で寝る二人が珍しかったのね!リボン忘れるとか決定打だったわけね!私の顔は今、真っ青を通り越して灰色なのだろう。嗚呼私は無罪なのに!否定しようがなく、頭の中で自己嫌悪が巡る。この状況を変えてくれるのは、彼しかいない!周りの人たちを適当にあしらい、彼のいる応接室に向かう。



私は、彼の前で泣くことができる。それは、彼が泪を笑顔に変えてくれるから。それに、泣けるという事は、本当に彼に心を許しているからなのよ。
待っててね、すぐに貴方の元へ行くから!
涙が流せるということ
(070501//言葉)(H.B.Dに献上!タイトルと内容マッチしてなくてすいません!汗)
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