薬品の匂いが漂う。好きじゃない場所だ。出来れば直ぐに出て行きたい。それでも、人が全くいないということは、ひとつの救いだった。人もあまり好きとは言えない。いつもなら、こんな所には来ない。態々出向くのは初めてだ。片手には花を持って。
 マフィア専用の病院とはよく言ったものだ。利益が発生しているのかどうかも疑わしい。しかし、それは今、ここにあり、ちゃんと機能している。普通の病院と、何ら変わりの無い内装で、ちゃんと医師も看護婦もいる。普通のそれと違うといえば、患者の顔つきぐらいだろう。本当に、謎の多い病院だ。
 初めて来るけど、場所も分かっているし、そこらへんの看護婦に尋ねる必要も無い。3階の、一番隅の個室。奇しくも、彼女の学生時代最後の教室の場所と同じだった。


僕がノックすると、「どちら様」という声が聞こえる。返事もせず部屋に入ると、「わ、雲雀さんか」と迎えてくれる。いつもの、。



「また百合ですか」
「何、“また”って」
「毎日百合送ってくるの雲雀さんでしょ、私分かりますもん」
「鉢植えの方がよかった?」
「酷い!」






 





「具合はいいみたいだね」
「そうですよねー、寧ろ雲雀さんの方が顔色悪いですよ」
「うるさい」
「本当に、私、死ぬんですかね」
「………」



この間。ついこの間、宣告させた事実は、儚く虚しいものだった。“余命が、あまり長くない”信じられなかった。否、信じたくなかったんだ。僕らが出会ってからの数年が、まるで雲のように、捕まえることが出来ず、やがて消えてしまうのが嫌だったから。は今ここに在るのに。科学とか、信用出来たものじゃない。今まででも、死ぬはずの人が生き延びたという例はいくつもあるし、彼女も例外ではないだろう。兎に角、今の僕に言えることは、僕らは科学も医学も関係ない。ただ、一緒に同じ時間を生きていたい、という事だけだった。







「後悔なら、もうないし。 多分」「意外」「そうかな?」「だけど、らしいよ」「雲雀さん」「何」「忘れてもいいですよ、私のこと」「………」「やっぱり、雲雀さんには倖せになってほしいです」「そう」「それに、私のせいで独り、って私も重いし」「じゃあ、は、そう思うの?」「……出逢わなかった方が、よかったかもね」「……」







重い、どんよりとした空気が流れる。そういえば、外は雨が降っていたんだっけ。雨が、の嫌なこと、全て洗い流してくれればいいのに。以前のような、清々しい笑顔を、今のは見せてくれない。だけど今は、笑顔、なんて言っている場合じゃない。堰を切ったように、の目から泪が零れ落ちる。お願いだから、泣かないで。が泣くなんて今まで無いから、僕、どうしたらいいか分からないよ。お願いだから。笑った顔が好きなんだよ。










「あ、のね」「何?」「さっき、さぁ、私のこと、ね、忘れても、いいって、いったけど、ね」「うん、」「ほんとは、忘れないで、ほしいのっ」「僕が、のこと、忘れられる訳、ないでしょ?」「ほんとは、ね、私以外、好きになって、ほしくないしっ、」「うん、」「私だけの、雲雀さんでいてほしい、の」「う、ん」「出逢わなければ、よかったなんて、全然、本当に、想ってないの、」「、うん」「……死にたく、ないよぉ」「……」










にキスをした。今までに無いくらい、とっても甘いキス。僕の、精一杯の愛してる、を込めたキス。僕、こんなに君のこと愛してる。分かるでしょ?のことが本当に好きなんだ。可愛くて可愛くてたまらない。いつもの笑顔も、たまに怒る顔も、さっきみた泣き顔も、全部の顔で、全部愛しく想う。だって全部だから。不思議に思うよ。だって、同じ学校に通い、出逢って、戀をした。だけど、これは偶然じゃなくて必然だったんだね。だって、こんなにも愛している。理由なんて、言葉になんかしなくていい。
 世間じゃ、愛してる、とか言葉にしているけれど、不器用な僕らだから、言葉にすることができなくて。でも、心ではちゃんと分かってる。感じている。名残惜しく唇を離すと、はもう、いつものだった。さっきの、君は、誰?





「愛を感じました」「半端無いからね、僕のは」「そういえば、キスすると長生きするんですってよ」「本当かな、」「さぁ?」



「もう、お見舞い来なくて結構です」「は?」「私、もう大丈夫ですから」「何言って、」「大丈夫、なんです」「…本当に?」「もう、雲雀さんしか見えない」「そう」「会いに来ないで下さいね、私が、会いに行きますから」「待ってる、ずっと」「それに、もう、泣きません」「分かった」「雲雀さんに逢えて、よかったです」「僕も、そう思う」「愛してる」「もう、離さないよ」










(ほんとはまだまだあいたいの。あえるじかんが、かぎられてるから。ひばりさんひばりさんひばりさん!わたしのために、ふりむかないでさっていってちょうだいね。それまでわたし、まどのほうむいてるから。さいごにみたすがたが、うしろすがたじゃかなしすぎるでしょ。ほんとは、しぬちょくぜんまでみていたいんだけど、それじゃさいごにみるかおが、かなしいかおになっちゃうでしょ。それはいやなの。やせほそって、しをうけいれていくわたしのすがたを、あなたにみせたくないの。あいしてるのに、あいはいっちょくせんのはずなのに、どうしてむじゅんするんだろう。ただたんじゅんに、ひばりさんといっしょにいるだけでよかったのに。こんなにもあいしてるのに。)(きみがいいたいこと、ぼくわかるんだ。なんでだろうね、ずっといっしょにいたからかな。たくさんのじかんをわけあってきたのに、きょうから、いまから、ぼくだけのじかんがはじまる。だけど、やっぱりぼくだけのじかんのなかには、きみがいる。!いくらよんでもかえってこないんだね、かえってこられないんだね。だけど、あいにきてくれる。ずっとまってる。ぼく、きみじゃなきゃだめなんだ。ほかのだれでもない、ぼくだけの。ほかのだれにもかえられない。それなのに、きみはぼくが、きみいがいのひとをすきなるとおもうの?しんがいだな。だけど、きみがぼくに、そうなってほしくないっていったとき、ほんとにうれしかったんだよ。だいじょうぶ、しんぱいいらないから。ぼくも、きみしかみえないんだ)










★ミ











彼女は旅立って行った。
約束通り、あの日から彼女に会いに行かなかった。
先日、彼女が亡くなった。
葬儀には、行かなかった。
先日、綱吉から、灰の入った、小さな小瓶を受けとった。
彼女、だという。
その日一日、小瓶とにらめっこを続け、眠った。





辺りは、街が少し遠くに見え、自然が広がっていた。今、イタリアの郊外にある、彼女の墓の前にいる。何故、ここにこれがあるの。のこと信じていないみたいで、いやだけど、いつ会いにきてくれるの?僕を待たせるなんていい度胸だね。まぁ、ずっと待ってるって言ったのは僕の方だけどね。これからも、僕は来る筈の無いを待ち続けるよ。忘れなんかしない、僕だけの。

世界は僕を哀れんでくれるだろうか

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