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映画と僕と彼女


なんとなく映画を見た。
単に時間をもてあましていて、退屈凌ぎをしたかったのだ。
特別有名な監督や役者が出ているというわけでもない映画を選んだ。
監督が誰にしろ、主演が誰にしろ、僕にはあまり興味がない。
もちろん、客席は空きばかりだった。
ほんのり光る程度の、足元のライトをぼんやりと見つめ、指定された席を見つける。
ひとり、僕の席より後ろに人の気配を感じた。
そこにはぼんやりと、かすかな明りの点いた天井を見ている女性がいた。
そして僕は引き寄せられるようにして彼女の隣へ座った。
その映画は、ひとりのヒーローと、とりまく事件、争いを描いたものだった。
巨大スクリーン上で、ヒーローは大活躍をした。
巨大スクリーン上で、何人も犠牲者がいた。

「何人死んだと思う?」
「どうだろう」

突然の彼女の問いかけに、曖昧な返事しか返せなかった。
巨大スクリーンには、ヒーローが周りに称えられている。
けれどその背景に、いくつ犠牲が出て、悪役は消滅したのだろう。
僕と彼女の言いたいことはそこだった。

「それはそれでしかないんだね」
「そうね」

次は僕が彼女に声をかけた。
彼女もまた、曖昧な返答をした。
それはそれでしかなく、僕は僕でしかなく、彼女は彼女でしかない。
僕と彼女は他人でしかなく、僕という人間はこうでしかない。
ヒーローはヒーロー、悪役は悪役、犠牲は犠牲。
段々と真っ暗な空間に、ゆっくり明りがともされていく。
まだ慣れない眼で、静かに彼女の顔を伺った。
その瞳に涙がいっぱいに輝いていて、どこか美しく見えた。

「そう絶望がるなよ」
「ええ、そう。でも、だけど」
「君は君でしかない。僕もだけど。他人を羨んでも」
「じゃあ、わたしと貴方はいつまでも他人でしかないのかしら」
「君が望めば、何かが変わるさ」

ふ、と小さく息を漏らして、彼女は綺麗に微笑んだ。
少し枯れて乾ききっていた僕の心も、彼女によって潤った気がする。
空間はもう眩しいくらい明るい。
君が望めば、何かが変わるさ。
そして僕が望めば。


(090506)