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『未定』というわたしの空白


どう考えても、シャーペンが進まない。
この空欄を埋めるという行為に、わたしはやたらと時間を要する。
というのも、青春時代というものは一見華やかなようで、苦悩の日々であるからだ。
例えば今、この『進路希望調査書』を書くだけでも。
成人した大人が青春時代に戻りたいという気が全く分からない。
こんなにも悩んで苦しんで不安を孕んだ胸を抱えて、どうして生きたいと思うのか。
青臭いらしいわたしにはまだ、それが分からないけれど。

「好きなように書けばいいじゃん。単なる調査なんだしさ」
「うん、まあ、ね。そうなんだけど」
「ほらー!早く、部活遅れるよ!」

部活か。
勢いで始めた野球部のマネージャーを勤めてもう3年になった。
別に、野球が好きだったってわけでもなかったけれど、友達が誘ったから。
わたしはただその言葉に流れて流れて、青春時代の部活を決めてしまった。
今でもそんなに野球が好きになったわけでもない。
正直ルールも用語もいまいち理解できていないし、ただ肌が日にじりじりと焦がされていっただけ。
厳しい練習に、楽しいようなつらいような様子で選手は白球を、バットを操る。
走って、投げて、打って、走って、泥にまみれて、汗にまみれて。
あたしも走って、ドリンクを作って、タオルを用意して、用具をそろえて。

「もうすぐ俺らも引退だなー」
「結局甲子園は夢かぁ」

そう呟いていた選手がいた。
甲子園、引退、夢で、結局終わってしまった。
わたしは確かに野球が大好きだというわけでもなかったが、あの白球が青空を舞う光景が堪らなく好き。
この広大で永遠の青空に、ぽっかり穴が開いたみたいで。
わたしは一瞬、ざまあみろ、と叫んでやりたくなる。

「……先、行ってて。まだ決まらないから」
「えー、分かった。先生と監督には言っとくね」
「ありがとう」

この空欄は、あの白球と似ている。
埋め尽くされていく何もかもに、ぽっかりできる空白。
わたしはそれが欲しい。それだけの余裕が。
正しい解答に埋もれる定期テストも、忙しい毎日の手帳も、びっしり書かれるノートも苦手。
切羽詰った状況、不安だらけなのに進んでいってしまう物事。
そろそろいい加減に、流れに任されている場合ではないのだろう。
空がだんだんと赤く染められるその頃。

『未定』

わたしは走らせたシャーペンで、無意識のうちに書き込んでいた。
明日、先生の呆れ顔が眼に浮かんで、すこし笑った。


(090506)