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「さようなら」
「さよーなら。気を付けて」

その人は優しい笑顔でそうわたしに応えた。
その瞬間、外の雪景色に感化されたかのように、ひんやり冷たい灰色の廊下が、つまらなく地味なこの景色が、色づき始めた。
そんなわたしの微量な心の、視界の変化を悟られないように、その日はただただ、彼の横をすり抜けるほかなかった。
わたしのマフラーは赤かった。真っ黒で特徴もないと思っていた制服は実は紺にも見えた。汚れたローファーの光沢に気付いた。
すっぽりと真っ白の雪に覆われたかと思っていた校庭は、運動部の踏み荒らした跡だけは土の色が見えていて、年老いた木々の枝先はまだまだ若い。
雪の降る空は、灰色にくすんだブルーが混ざっていた。
この世界の色を、彼が整えたかのように。

同時に、わたしにたくさんの傷を与えた。

「おはようございます」
「おはよう。早いな」

ことば一つを交わすたびに、世界の新しい色を見る。
登校途中、さんざんこの景色に芯から冷やされてきたというのに、ただ一度の挨拶が心臓を突き動かし、血液が蠢くのが分かった。
おはよう、さようなら。
それ以外のことばを教えて。
もっとたくさんの色を教えて。


せんせい、おしえて


同時にたくさんの傷と不安が降り積もる。
せんせい、せんせい。
あなたはせんせい。



(141216)