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砂上


その日は、
長い夏休みも終盤で、太陽は容赦なく真っ逆さまに照り付けていた。
天気は晴れていたけれど、この島にしては珍しく風のない日で、波は大人しくて、海は静かだった。
いやに静かな日だった。

花さんが、帰ってきた。
春に島を出て、半年も経っていないというのに花さんはもう違っていた。
すこし髪も伸びて、軽い化粧をしていて、笑顔もまた、大人びて見えた。
海辺にみんなが集まって、また前みたいにばか騒ぎしている。
いつかのように、ぎこちなく潤平と花さんが話しているのを聞きながら、あたしは砂浜に座っていた。
補習帰りの制服のスカートに砂がつこうが、構わなかった。
海ではキリとメガネと流歌がずぶ濡れになりながら騒いでいる。
目を瞑ると、島の音が聞こえる。
波、鳥の鳴き声、遠くの船の音、静かな風、騒ぐ声、
それから二人の―――

「七海?」
「えっ、七海ちゃん?」

あたしはスニーカーを脱いで、靴下も放り投げて、遠く続く砂浜を眺めて、
―――走った。
はやく、もっとはやく。誰よりも、なによりもはやく走りたい!
波も風も鳥も、何にも追いつかれないくらいの速さで、
何にも聞こえないくらいのはやさで、

「い、たっ!」
「七海!」

砂に足をとられて、そのまま倒れこんだ。
遠くから潤平の声が近づいてくる。
ねえどうして。
どうしてあんたの声は、聞こえてしまうんだろう。
ただそれが悔しくて、悔しくて、あたしは握った砂を投げつけた。

「いってぇ、何すんだ、七海!」
「七海ちゃん……」

本当は全部、わかっているんだもん。
今だって、流歌はずっとあたしを見てくれてたことも、メガネが優しいことも、キリがもどかしく思ってることも。
みんなそれぞれわかっていて、知っていて、秘密にして、口を閉ざした。
だけどあたしは全部わかってる。
潤平は花さんが好きで、でも花さんは潤平をあきらめて、あたしはまだ潤平が好きで。
だから

「…………………っ、」

言ってしまえば、楽なのに。
どうして言えなかったのかはわからない。全部全部言ってやろうと思ったのに。
潤平の顔みたら、もう何もいえなくなった。
代わりにぽろぽろ涙が溢れてきて、なんて情けないんだろうってまた悔しくなった。

「オイ、どうしたんだよ?ちょっ……何泣いて……!」
「す…………すな、入った。目っ」
「……俺のセリフだろ」

ぐずぐず泣いてるあたしの体中の砂を払って、潤平はあたしを背負って蛇口に向かった。
この年になっておんぶなんて恥ずかしいって言ったら、文句言うなって怒られた。
本当は砂なんて入ってないのに、きれいに水で洗い流した。
でもあたしは、しっかり聞いたのだ。あたしを負ぶさる前に、潤平が言った言葉。

「お前は絶対俺を泣かせないよな」

そうだよ、あたしはしってるんだ。
花さんと話してる間ずっと泣きそうな顔してた、がきんちょみたいな潤平の顔。
だけどやっぱり、言えそうにもないから。
秘密にしててあげるから。


(110120)