フィクションの獣
フィクションのけもの
フィクション除け者






 伏黒恵にとって読書は趣味というよりも習慣だが、手を付ける本には傾向がある。実話系のものばかりだ。理由ならある。何も書籍に限らず、およそ人が創作する物語において邪魔な存在がある。
 五条悟だ。
 宙に浮き空間を移動し虚を操る、そんな男が身元保証人でどうやってファンタジーに夢を見られるというのか。巨大隕石でも宇宙人襲来でも伝説のドラゴンでも、五条ならば一人で処理できるのだ。 近年話題となった怪獣映画だって「五条先生なら瞬殺だろうな」と思ってしまった。憤懣やるかたない。 あの軽薄な男に自分の嗜好が影響されたかと思うと腹立たしいが、どうしたって事実である。
 だから伏黒にとって、虎杖悠仁の趣味が映画鑑賞というのは理解が及ばなかった。それも、伏黒にとっては諸悪の根源である五条と、ソファで並んで観ることも珍しくなかったというのだ。大体にして虎杖自身も、数奇な運命と稀有な肉体を持った人間だ。どんなに派手な殺陣もドラマティックなストーリーも、彼には敵わないだろう。伏黒などはアクション映画の予告を見ても、「虎杖ならもっとスマートに屋根を駆けるだろうな」という感想しか出てこない。

 ちなみにそれとなく虎杖にこの話題を振ってみたことがあるが、あろうことか「そう分かる五条先生ってスーパーヒーローみたいだもんな!」と返されたので二度と蒸し返すまいと心に決めている。

 閑話休題。


 なので虎杖が伏黒の部屋に持ち込んだDVDが、所謂「余命三ヶ月」ものであった時などは、言葉に詰まってしまった。
 ぐすぐす鼻を鳴らす、なんとも良き鑑賞者である虎杖の隣で、虚無の思いでひたすら映画が終わるのを待った。「たとえあなたより先に死んでしまうとしても」とヒロインが涙を浮かべて微笑んでいる。一体どういう感情処理がおこなわれているのか、思わず虎杖の頭を凝視する。 よもや遠回しな糾弾なのだろうか、虎杖に限って。そんな不安すら湧きながら、ティッシュを箱ごと渡す。
「ありきたりと思っても、やっぱ泣いちゃうなあ」
 共感しようにもできない感想に、伏黒は無言を貫く。虎杖は涙こそ流さなかったが、鼻の頭が僅かに赤い。
 とにかく映画は終わった。しかし何故か虎杖の手には別のDVDがある。
「次これな。冤罪でぶち込まれた主人公が死刑になる話なんだけど・・・」
 にこにことノートパソコンを操作する虎杖を前に、かける言葉が見つからない。
 ちなみに三枚目の映画はB級ゾンビものでようやく胸をなでおろしたが、最後は主人公がゾンビと化した親友を撃ち殺して終わった。




2020.8.30




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