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青い空に白い雲。
アロウズにおける私の唯一の友人が戦死した日にしては随分と気持ちよすぎるその空をモビルスーツが3機飛んでいた。
赤いジンクス、アヘッド、薄い緑の見たことがない機体、それが撒き散らすGN粒子。
ばらばらの色が徐々に減速し、この母艦へと降下してくる。
誘導棒が上下に揺れる、その向こうではマネキン大佐が睨むような目で新型を見ていた。

マネキン大佐はアロウズに来てから穏やかな顔をしなくなった気がする。
きっとパトリックがいないことも手伝っているのだろうと思うけど、そのパトリックはマネキン大佐直々に『来るな』なんて命じられているのだ。
パトリック、お前愛されてるぞ。
わかりにくいけどすごく愛されてるぞ。
あれ、そういえばあのジンクスのカスタムって、どこかで、

「大佐ぁ〜!! 来ちゃいましたぁ〜!!!」
「あの男……」

ああ、やっぱりパトリック。
お前マネキン大佐の愛に気づかなかったのか。
馬鹿か。
思わず頭を抱えそうになったけど、本当に頭を抱えたいのはきっと私ではなくマネキン大佐だ。
間違いない。

そのマネキン大佐は眉間にしわを寄せてパトリック……ではなく、新型を睨んでいる。

そういえば新型がいるのだ。
パトリックに気を取られて忘れていた。

マネキン大佐の視線を追うように新型に目をやる。
コックピットハッチは既に開いていて、アロウズのパイロットスーツをまとった細身の影がそこに立っているのが見えた。

ちょうど逆光になっているのと遠いのとで顔はわからない。
遠目に見ているとパイロットとして心配なくらい細くて、女性なのか男性なのかもよくわからない。
ラインが丸くないから男性なのか、でもそれにしては華奢に見える。

パイロットが地面に降りた。

少なくとも逆光ではなくなったけど、それでも遠くてよく見えない。
何せ私は新型からゆうに50メートル以上は離れたマネキン大佐の、そのさらに50メートルほど離れたところにいるのだ。
いくら私がパイロットの端くれでも無理。
顔のつくりがはっきり見えたりなんかしたらもはや人外。

見かけない顔があればそれが新型のパイロットってことでいい、という認識に落ち着いたところで私は興味を失った。
欄干に背を預けていた体を反転させ、白く立つ飛沫をぼんやりと眺める。

「補充要員として着任しました、リヴァイヴ・リバイバル大尉です」
「作戦指揮官のカティ・マネキン大佐だ」


波の音に混じって話し声がする。

リヴァイヴ・リバイバル大尉、そう聞こえた。
かすかに聞こえたその名前に私は1人首をひねる。
リヴァイヴ。
リヴァイヴ・リバイバル。
ものすごい名前だ。
きっと聞き間違えたのだろう。
まあ聞き間違いでもそうでなくても、関わることなんてそうそうないはず…

少尉!」

…あれー…何か今、マネキン大佐が私を呼ぶ声が聞こえたような…。

! 来い!」

顔を向けるともう一度呼ばれた。
マネキン大佐はしっかり私を見据えている。
諦めるしかない。

「はい!」

小走りにマネキン大佐の元へ向かう。
マネキン大佐に近づくにつれて、自然と大尉の顔も見えてきた。

最初に印象に残ったのは白い顔に赤い目。
薄紫の髪と合わさって、何とはなしに怖い。

「何か御用でしょうか、マネキン大佐」

抱いた感想を押し込めて、努めて明るく声を上げる。
マネキン大佐が呆れたように息をついた。

「……敬礼を」
「…あ…申し訳ありません。
モビルスーツ部隊所属の少尉です」
「リヴァイヴ・リバイバル大尉です」

柔らかな笑顔と共に返礼があった。
けどその瞳の奥に何か底知れないものが渦を巻いているような気がして背筋が寒くなる。
色合わせがあまり見かけないものだからなのか、どうしても漠然とした恐怖が離れない。
そっとリバイバル大尉から目をそらした。

何で私はここに呼ばれたの。

「リバイバル大尉は着任したばかりだ。
少尉、リバイバル大尉が慣れるまでの間サポートを頼みたい」
「……あの、何故それを私に?
かなり不向きかと……それに補充要員は他にもいますし、リバイバル大尉にだけサポートというのは」

おずおずと問えば返ってくるのは氷の眼差し。

「他の者にも当然サポートはつける」
「はぁ…」
「リバイバル大尉。
施設の構造を把握するまでは少尉と行動してもらう」

リバイバル大尉はすっと目を細め、それから柔和に笑んでみせた。
私には、彼が笑んだのではなく笑んでみせたようにしか見えない。

「そうですね、確かに母艦で迷うことは避けたいですから。
よろしくお願いします、少尉」
「…は」

半ば意地で目を合わせる。
短い返事と共に敬礼をして、それからすぐに笑みをこぼして。

「それでは簡単に施設の案内をさせていただきます。
マネキン大佐、今日は1日それに費やしても構いませんか?」
「1日は長すぎる…。
リバイバル大尉を怠慢の言い訳に使うな」
「そう仰いましてもこの母艦はかなりの規模がありますから。
ブリーフィングまでに終わらせる努力はしますよ」
「…もう好きにするといい」
「了解しました。
ではリバイバル大尉、こちらへ」

微笑んだままですっと手を伸べ、艦内へと誘った。
リバイバル大尉はあの柔和な笑みを浮かべてついてくる。
艦内へ1歩踏み込めば日の光はなく、狭い通路に足音が響くだけ。
沈黙と、背後の気配が重い。

「まず居住スペースの案内からさせていただきますね。
手前から尉官を持たない兵、准尉、少尉、中尉、大尉の順に部屋が並んでいます。
大体2ブロックで階級が変わります。
大尉のお部屋はこちらになります」

いつもよりも少し早足で居住スペースをすり抜け、大尉区間(勝手にそう呼んでいるだけであって正式名称はない)で足を止めた。

つい先日リント少佐に言われてわけのわからぬまま清掃させられたのは大尉区間にある1室だ。
多分そこがリバイバル大尉の部屋になるのだろう。
間違えていたらそん時は謝るだけだ。
件の部屋は大尉区間と中尉区間のちょうど境目の辺り。

壁につけられたタッチパネルを少しいじるとドアが開いた。

「パイロットスーツのままでは息苦しいでしょうから先に制服にお着替えください。
制服はそちらのクローゼットの中にございます。
それとユニットバスもお部屋にございますので軽く汗を流してこられるのもよろしいかと」
「そうだね、じゃあそうさせてもらおうか。
できるだけ早く支度を済ませるよ」
「どうぞごゆっくり」

マネキン大佐の前とは違う砕けた口調に一瞬面食らう。
それでもすぐに平静を被って笑顔を張り付け、細い背中がドアに遮られるのを見送った。
ごく小さな物音しか聞こえなくなって私はやっと息をついた。

全部見透かすような目が怖い。
全部計算されたような所作も怖い。
人に警戒心を抱かせないように作られた優しげな表情が怖い。
ぶるりと身を震わせ、肩を抱いてしゃがみこむ。
リバイバル大尉は新型を任されるくらいなんだからさぞ優秀なんだろう。
それならきっと一通り案内すれば覚えるはず。
私でも覚えたのだからきっと大丈夫。
艦内1周分の我慢だと自分に言い聞かせてみても肩を抱く腕に篭る力は抜けない。
カティ、私はこの5年で初めて貴女を恨むよ。
よくまああんな怖い人を私に任せてくれたものだ。

背後から細く聞こえる水音。
リヴァイヴ・リバイバルに関する全てが怖い。

ああ、これから面倒なことが起こりそうな気がしてならない。
最初に見せたあの底なし沼の目なんてなかったかのように完璧に作られたあの表情に騙されそうになっている自分がいるのだ。

ぐるぐると無意味に回る思考(最終的には怖いけど上官であり同僚なのだから普通に接しなくてはならない、というところに落ち着く)に歯止めをかけるべく端末を引っ張り出した。

ああ、でも、やっぱり面倒なことが起こる気がする。
助けてソーマ、まるでアロウズが人間の集まりじゃなくなっていくみたいだよ。






先日見た夢を元にあれこれ脚色して文字にしてみたら存外カオスで驚きました。
あと書きづらい。
夢ではこの後ヒロインが戦術予報(の真似事)を始め、リヴァイヴが出てきたことにも気づかず、リヴァイヴは出来上がったプラン(もどき)に素直に驚きます。
夢を見てるのは笠原で、さらに9話どころか11話視聴後の夢だったのでヒロインの戦術=スメラギの戦術の裏読みという最強っぷり。
ですがそれはあまりにも不条理なのでそこは割愛させていただきます。
これと同じ設定でコーラ夢も書きたいところです。
眠って見る夢は時に夢小説よりも夢小説らしい時がありますよね!