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ひやりとした風が首元を掠めた。
突然の寒さに小さく身震いし、ひらひらとはためくカーテンを見やる。
窓を開けっ放しにしたつもりはないしそもそも窓を開けた記憶がないけれど、この家に住んでいるのは私だけではない。
多分私の気づかないうちに彼が窓を開けて、やっぱり私は気づかずにそのままにしてしまったんだ。
読みかけの本にしおりを挟んで閉じると、立ち上がって窓に手を伸ばす。
指先に触れたガラスはとても冷たい。
けれどその冷たい窓の向こうの空は黒から紫、オレンジ、そして白へと色を変えようとしていた。
もうすぐ夜が明ける。
結局また眠らずに夜を明かしてしまった。
きっと彼は仕方のない子だね、と言って困ったように笑うだろう。
まだ開けたままの窓からは時々ひんやりした風が吹き込んでくる。
この風も、あと1時間もしないうちに暖かみを帯びる。
こうしている今も太陽は少しずつ昇って、空を明るく染めていく。
彼が起きた時、明るい陽射しと温かい朝食が揃っていたらきっと素敵な1日になるだろう。
よく考えなくても起きた時に日が昇っていて朝食があるというのはわりと普通のことなのだけれど、私にはとてもいい思いつきのように思えた。
彼の部屋のカーテンを開けるのは彼を起こすときでいい。
寝不足なんて何のその、私はひらりと身を翻してキッチンへと向かう。
食パンを2枚トースターに入れて、たまごを3つとベーコン、フライパンを出して、それからケトルにお湯を沸かして。
ベーコンはカリッと焼いて、たまごはふわふわのスクランブルエッグ。
コーヒーもちゃんとサーバーに用意したからあとはお湯が沸くのを待つだけ。
さあ、彼を起こしに行こう。
小走りに彼の部屋へ向かい、念のために軽くノックする。
3つ数えても返事がない。

「ゲンさん」

そう声をかけながらドアを押し開ける。
部屋の右奥にあるベッドはこんもりと膨らんでいた。
肩があるだろう部分は規則的に上下して、彼がまだ眠っていることを示している。
するりと身を滑り込ませ、ベッド脇に膝をつくと聞こえたのはやっぱり寝息。
こちらに背を向けるように丸まって眠る彼はいつもより幼く見えて頬が緩んだ。

「ゲンさん、朝です」

ここに別の誰かがいたらお前は人を起こす気があるのか、と怒られてしまいそうなほどの小声で彼を起こす。
彼の寝顔は安らかで、悔しいくらいに綺麗だった。
それを簡単に壊せる人がどのくらいいるだろう?
けれど、眠っている彼は笑わない。
声だって聞かせてくれない。
私のことも見てくれない。
それは嫌で、さっきよりは大きな声をかける。

「ごはん、冷めますよ。
起きてください、ゲンさん」

滑らかな頬にそっと触れると、睫毛が小さく震えた。
まるで抗うかのようにもぞもぞと体を動かし始める。

「ゲンさん」
「………」
「おはようございます」

まだ目が覚めたわけではなさそうだけれど、ここまでくればあと少し。
表現は悪いけれど追い討ちをかけるように彼に声をかけ続ける。
――やがて、目蓋の奥から青い瞳が現れた。
ああ、やっと起きてくれた。
私はにっこりと笑って言う。

「おはようございます、ゲンさん」
「…ああ、おはよう…」
「お天気、よさそうですよ」

ベッド脇のカーテンを引くと思ったとおり、朝の陽射しが部屋を照らした。
彼はまぶしそうに目を細め、ゆっくりした動作で起き上がる。

「…いいにおいがするね」
「ごはん、できてるんですよ。
冷めちゃう前に食べましょう?」
「…そうだね」

起きたばかりの彼はいつもよりも返事が遅い。
朝は苦手なのだと、いつだったか聞かされたことがあった。
だからきちんと起きるまで見ていないとまた眠る、と。
だから私はぼんやりと目を擦る彼の手を引くのだ。

「着替え、今しますか?」
「あとでいいよ」

ふわりと彼の表情が緩んだ。
何故か私も嬉しくなって、一緒に笑う。

「ところで、今は何時だい?」
「ええと……6時くらい、です」
「…寝なかったね?」
「面白かったんですよ、あの本」

そう言うと彼は眉尻を下げた。

「本当に君は仕方のない子だね」
「ふふ、ごめんなさい」
「今日はちゃんと寝るんだよ」
「はい」

思っていた通りの台詞に笑ってしまったけれど彼はそこには突っ込まず、ただ寝るようにと言った。
それに素直に頷けば、いい子だね、と大きな手のひらが頭を撫ぜる。
子ども扱いをされていると思うときもあるけれど、彼に頭を撫でられるのはとても気持ちがいいのだ。

「ねえ、ゲンさん」

私が眠ったら起こしてくださいね。
1日の始まりに見るのはいつもあなたの顔でありたいから。





突発夢すぎて最早自分でも何が何やら。
そして誰得^q^