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「よぉ、!」

温かいミルクティーが飲みたくなって立ち寄った食堂で、懐かしいんだか懐かしくないんだかわからない気の抜けた声がした。
反射的にそっちを見ると思った通り、近年稀に見る馬鹿――まあ、いい意味で――パトリックの姿。
そしてその向かい側にはさらさらの金髪をショートボブに整えた女の子。
くりくりした青い目が可愛いその子が困ったように私とパトリックを見比べている。
その様子に思わず私がつぶやいた一言を誰が咎められようか。

「……パトリック、とうとう……」

人の少ない食堂に案外大きく声が響いた。
パトリックが片眉を跳ね上げる。

「おいコラ『とうとう』って何だよ!」
「…マネキン大佐に相手にされないからって、とうとう…」

ミルクティーのボタンを押しながら大げさに頭を振ってやる。
ここでしっかり噛み付いてくるのがパトリックのパトリックたる所以というべきか。
馬鹿野郎俺はいつまでも大佐一筋だ、と反論された。
それを適当に聞き流し、ミルクティーがなみなみと注がれたカップを片手に2人の方へと歩を進める。

「つーかよォ、お前そういうのはルイスちゃんにも失礼だと思わねーの?」
「あっ、いえ、私は別に…気にしてませんから」
「ほら見ろ、気ィ遣ってんじゃねーか」

大佐一筋でも女性への気遣いは忘れない…その辺りもまたさすがパトリックといったところで。
内心苦笑しながらもテーブルの端にコップを置くと、ルイスと呼ばれた子に微笑んだ。

「隣いいかな?」
「は、はい」
「初めましてだよね。
モビルスーツ部隊所属の少尉です」
「ルイス・ハレヴィ准尉です。
申し訳ありません、軽々しく…」
「いいんだよ、誰もそんなん気にしねーから」

頬杖をつきながらやる気なさそうに遮るパトリック。
パトリックの言うことは確かにほとんど間違ってないけど何かイラッとするのも確かで、腰を下ろすついでに暴言を返しておいた。

「そうそう、パトリックは部下になめられる上官ランキング不動の1位だし気にしないで」
「誰がだよ!
俺様はなぁ、不死身のコーラサワーって呼ばれ」
「ほんとあんたの運のよさには呆れるわ」

ついさっきの誰かさんと同じように言葉を遮る。
パトリックは不機嫌そうに目を細め、ルイスはやっぱり困ったように私とパトリックを見比べていた。
よく考えなくてもこの子は置いてけぼりにされている。
ほぼ初対面に近いだろう上官2人に挟まれて、あまつさえその2人は好き勝手言いたいことだけ言っているのだ。
様子からしてパトリックが引きとめたんだろうし…上官に引き止められてちゃ立ち去るタイミングも掴みにくいだろう。
背中を冷や汗が伝った。
何か振らないと…!

「ところでさ、ルイスはどうしてアロウズに?
まだ若いよね」

……しまった。
言ってから気づいた。
この子が私たちみたいに国連軍から移ってきたとは限らない。
アロウズで初陣を迎えたんだとしたら、何かしら嫌な過去を持っているんじゃないだろうか。
ふとその可能性に思い当たり、撤回しようとした矢先にパトリックが話題に乗った。

「お前が言うな。
けど確かに気になるよなー…こんなに可愛いのに軍属なんてさ」

ルイスの雰囲気が硬くなった。
隣に座る私にはそれがよくわかる。
ああ、やっぱり地雷だった……。
慌てている時ほど地雷を踏みやすいのは自然か何かの摂理なのか。
やばい、そう思っているうちにルイスが低くつぶやいた。

「5年前、私は親戚すべてをガンダムに殺されました。
その復讐のためにここにいます」

空ろな瞳で、無表情で、5秒もかからずに告げられた言葉は重かった。
ルイスは20歳そこそこの女の子だ。
5年前といえばまだ10代半ばから後半。
その年頃の少女が親戚を全て失ったとなると、そのショックはどれほどだろう。

「…ごめん、嫌なこと聞いたね」
「俺も…悪い」

私は目を伏せて、パトリックはばつが悪そうに頭をかきながら謝る。
けれどルイスは存外あっさりと首を振った。

「いいえ。
…お2人はどうしてアロウズに?」

引き換えのように飛び出したのは私がしたのと同じ質問。
パトリックと2人、首をかしげた。
理由、そんなもの。

「私は要請があったからかなー。
元々5年前はユニオン軍にいたんだけど…まあ、戦果が認められたといいますか国連軍のジンクス部隊に参加することになって。
まぁあとは流れ」

へらりと笑いながら言えばパトリックは誇らしげに胸を張り、力強く言い切った。

「俺はもちろん大佐を守るためだな!」
「あれ、ガンダムにお返ししてやる気はないの?」
「あ、あー……それもないとは言えねーけどやっぱ一番は大佐を守るため!
それにガンダムにお返しすんのと大佐を守るのと、結果的には一緒だろ」

結局こいつの行動原理は全部マネキン大佐に関係するのだ。
もう30過ぎてるのに若々しいというか落ち着きがないというか。
陽気に笑うパトリックを見てルイスは戸惑いの色を浮かべた。

「お2人は、どうしてそんなに明るく笑っていられるのですか」

ぽつりと吐き出された呟きは答えを求める響きを伴ってはいなかった。
ただ単に、ぽろりと思ったことが口から出ただけのような。
ルイスはすぐにはっとしたように目を開き、何でもありません、そう言った。
けれどパトリックはがしがし頭をかきながら机に彷徨わせ、それをルイスに戻す。

「……まぁ……ルイスちゃんが何を思ってるのかはよくわかんねーけどさ。
参考までに、俺が笑ってる理由は大佐のためだ!」
「…大佐…マネキン大佐のこと、ですか?」
「おうよ。
あの人は大佐で、戦術予報士で…1つでも重過ぎるくらいの責任をいくつも負う立場にいるんだ。
だからどうしても真面目…つーか暗い顔になっちまうけどよ」

ぽかんとするルイスを置き去りに、にかっと気持ちいいくらいの笑顔でパトリックは続ける。

「それでも大佐には笑っててほしいんだよ。
惚れた女にあんな暗い顔させっぱなしじゃ男が廃るってな!
だから俺は迷惑になんねー程度に馬鹿やってる」
「パトリックのこれは天然8割計算2割なの」
「うるせーな
純粋に性格だけで笑ってんだろお前は」
「何か不都合でも?」

真顔で言い切ると投げやりに一言、ねぇよ、と返ってきた。
素直な反応に笑い、私は少し温くなったミルクティーを一気に流し込んで立ち上がる。

「ま、気負うなってことですよ」

ぽんぽんとルイスの肩を叩いて言い、歩き出そうとしたその時。

少尉」
「なぁに?」

私を呼ぶ声に足を止め振り返る。
さっきより少しだけ明るい色になった気がする青い瞳が私を見ていた。
そして、ほんの少しだけ表情が緩んで。

「ありがとう、ございました」

その笑顔はごく小さく、あっという間に消えてしまった。
でも1つ断言できることがある。


「ルイスは笑ってる方がいいね」






いつか見た夢第二段。
夢小説というよりもルイス+コーラにちょっとヒロイン混ぜた感じですみません。
このメンバーだとルイスに喋らせないと空気になるん、だ…コーラが喋るしヒロインが茶々入れるしで…。
変な話ですがこの小説、夢漫画にした方が気持ち伝わるかもしれません。
誰か文才をください。