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ぎらぎらと照りつける太陽がアスファルトを熱く焦がす季節がやってきた。
鉄とコンクリートの街、ミッドガル。
ヒートアイランド現象のせいでまさに灼熱の中、極力外に出たくない、と思うのは皆同じである。
同じである、が。

「はーいどうもこんにちはータークス最弱さんが来ましたよー皆様盛大な拍手でお出迎えくださーい」
「見回り始める前から暑気にやられないでください」

今日もあたしはミッドガルのど真ん中にいる。
その原因は数ヶ月前、新年度の始まりにあった。




***






「いくぞー、せーの、最初はグー!
じゃんけんぽん!
あいこでしょ! しょ! しょ!」
「あいこでしょ! あいこでしょ!」
「あいこでしょ! あいこでしょ!
あいこでしょ……ちょ、終わらない!
終わらないよこのじゃんけん!!」

動体視力の無駄遣い! と喚きながらもひたすらに続くあいこ。
みんながみんな、相手の手の動きを本気で見極めているものだからまったく終わらない。
そう、このじゃんけん、タークス全員が持ち回りで担当する八番街警護の担当決めなのだった。
なのだった、が。

「こんのくっそ暑いのに、警らなんか、ごめんだぞ、と…!」
「一般兵に謝れ!」

やはり8月は人気がなかった。
ミッドガルに自然はほぼ無い。
太陽の熱を反射するのみのコンクリート。
そしてたまごが焼けそうなほどに熱くなる鉄。
主な構成要素はこの二つだ。
夏ともなるとそりゃあ暑い。
去年は日本に比べれば涼しい、なんて思ったけど、そんなことはない。
夏が終わる頃、あたしは見事にばてていた。
そんな暑さの中で警らをせねばならない、なんて拷問のようなもので。

「ルード、お前体力あんだろ。
行ってこいよ」
「…むしろ体力づくりにお前が行け」
「だったら俺よりシスネだろ?」
「あら、それを言うなら私よりじゃないの?」

以上、すべて終わらないじゃんけんをしながらの会話である。
まずい。
この流れはまずい。
内心冷や汗をだらだら流しながら矛先を変えることを試みる。

「レノはもう少し日に焼けたほうが女の子受けすると思うな」
「今のこの状況じゃなければ信用してやらんこともなかったぞ、と」

ばっさり。
そんなことだろうと思ったよ。
そしてあたしは冷感シートとアイスノンの購入を心に決めたのだった。




***






そして話を今に戻す。
タークスと同じく一般兵も持ち回りで警護を担当するものだから、なかなか同じ人とは仕事ができない。
今までにも何度か警護はしたけれどあの時の、キリ似の隊長さんとは会えなかった。
しかし今回、一般兵側はあたしの初仕事の時の隊が担当するらしく。

「どうも、みんなのアイドル隊長ことリオンでーすさんお久しぶりです相変わらずお元気そうで」
「え、あ、どうもお久しぶり……え?
隊長さ……え? そんなキャラでしたっけ?」
「はい。
前回は初対面だったので真面目にやってみました」

唖然。
自分から変なテンションで挨拶したのに思わず動揺してしまった。
前回は真面目にしてみた、ってそれでいいのか部隊長。

「自分から吹っかけといて動揺しないでください。
ちなみにタークスで噂の世にもふざけた部隊長とは実は私のことです」
「あんたか!!」

…タークスには、まことしやかに囁かれている噂がある。
警ら担当の部隊長の中に1人、とんでもなくふざけた奴がいる、というものである。
しょうもない噂を流す人がいるもんだなぁ、という程度の認識だったのだが、まさかの1年越しの新事実。
ていうかよく考えたらこの人初対面の時も名乗らなかったよね。
その時点でまあ、片鱗は見えてたよね。
隊長さん…改めリオンさんの口元だけでわかる楽しそうな笑みに、この暑い中、このテンションの人と1日一緒かとひとつ息を吐く。
ああ、無意味にブリザド撃ちまくりたい。




***






やわらかな風の吹くジュノンの砲台。
いつだったか、も交えてふざけたその場所に俺達はいた。
砲身の中腹に立ち、頬を撫ぜる風を感じていると背後から聞き慣れた詩が聞こえてくる。
俺は伏せていた瞼を持ち上げた。

「『深遠のなぞ それは女神の贈り物
われらは求め 飛びたった』」

愛読書を手に、ジェネシスが静かに詞をつむぐ。
振り返ればその隣ではアンジールが腕を組み、足元を見つめている。
皆一様に、穏やかな笑みを湛えていた。
笑み、と言うには曖昧な、口角を上げただけのそれはこれから始まる遊びへの期待ゆえか。

「『彷徨いつづける心の水面に
かすかなさざなみを立てて』」

左手には正宗を、俺はゆっくりと、2人へと歩み寄る。
一節を読み切る頃、アンジールが面を上げた。

「『LOVELESS』第1章」

立ち止まり、そらんじたその一節の題名を告げればジェネシスはページへと落としていた目を上げた。
そして息を漏らすように笑うと、詳しいな、ととてもそうは思っていない口調で呟く。
音も無く本を閉じ、腰掛けていたパイプから飛び降りた。

「毎日聞かされれば、嫌でも覚える」

苦笑しながらこめかみをとん、と軽く叩き、正宗を軽く振った。
これが合図だ。
2人はそれぞれ己の武器を構え、アンジールの表情からは笑みが消えた。

「へらへらして剣を振るなよ」
「どっちがだ」

言い終わるのとジェネシスが一歩を踏み込むのと、どちらが速かっただろうか。
数メートルの距離を一気に詰め、左右から剣戟が飛んでくる。
アンジールとジェネシス、それぞれの一撃を跳ね返すと、素早さでアンジールに勝るジェネシスはひらりと身を翻し、間髪入れずに二撃目を叩き込んできた。
立てた正宗でそれを受け、振り抜き様に背後に迫るアンジールの剣を払いのける。
二度、三度、四度。
金属のぶつかる硬質な音が響き、逆袈裟に斬り上げた刀は空を斬る。
僅かに屈めた身からすかさず繰り出された一撃は腕を引いて避けた。
視界の隅に翻る赤いコート。
そちらへ振り返りつつ、袈裟に薙いで突き出されたレイピアを弾いた。
薙いだ先にはアンジールの剣。
弾かれるままに再び刀を振り上げ、2人の攻撃をいなす。
続けて数度、火花が散った。
2人が同時に武器を構えなおし、力強く踏み込んでくるのを受け、弾く。
決して広いとは言えない砲身の上で幾度となく剣をぶつけ合った。
レイピアを受け、一瞬の鍔迫り合い。
上からの殺気に跳び退れば、さっきまで俺がいた位置をアンジールが正確にえぐる。
その陰でジェネシスが高く跳び上がり、独楽のように回転しながら迫ってくるのを一振りでいなした。
おそらくならば無駄に回るな鬱陶しい、の一言くらいはつけただろうが、そこには触れないことにする。
幼馴染ならではのいいコンビネーションだ、と思うことにして駆けてきたアンジールの剣を受け止め、からかうように囁いた。

「さぁ、おもちゃの剣は片付けろ」

ひときわ強く剣を弾くと、受け止めきれずにアンジールがたたらを踏む。

「さすがはセフィロス、か」

体勢を立て直したアンジールをジェネシスの腕が阻んだ。
その目は好戦的にぎらついている。

「アンジール、下がってくれ。
セフィロスと勝負がしたい」
「ジェネシス……」
「俺も英雄になるんだ」

ジェネシスが独り言のように呟きながら刀身に掌を滑らせると、輝く文字が浮かび上がる。
そう間を置かずに刀身は赤く輝き始めた。
ジェネシスの本気。
魔法剣だ。
正直なところ、ジェネシスが本気で来たところで負ける気はしない。
しかし、簡単には勝てない相手であるのもまた事実で。

「いいだろう」

小さく笑みを零し、誘いに乗った。
おそらく俺も今、ジェネシスと同じ目をしている。





2011.11.20